同じ失敗を、繰り返すのをみていられなくて。



『朽ちていった命―被曝治療83日間の記録―』
NHK「東海村臨界事故」取材班(新潮文庫え16-1)


再放送のたびに、番組表をチェックしていたわけでもないのに観てしまう番組がある。
「被曝治療83日間の記録」。そう、この本のもとになった番組だ。

映像と活字、表現手段が違えば当然なにを重点に描くか、なにが伝わりやすいかは異なってくる。
映像だった番組で印象深いのは、インタビューを受けている関係者の方々の表情だ。
活字では、治療の中身の具体的な説明、それによって何が起きたのか起こらなかったのかが明確に伝わってくる。

この本を私が読んだと言い、紹介したのは先月参加した読書会で。
そのときは震災前で、こんなことが起こるなんて考えもせず選んだ。
ただ、心を打たれた本で、誰かに知って欲しいと思ってえらんだ。

そして現在。
なければいいと思っていたことが起こって。不安に胸が押しつぶされそうだ。

もっとも放射線被曝の恐ろしさを感じた事実が、
臨界事故で放射線20シーベルト(推定)を浴びたとされている大内さんの染色体が破壊されていたということ。
つまり、あたらしい細胞がつくれない、ということ。
垢やらフケやら古くなった細胞を捨てながら、私たち人間は再生を繰り返し生きているというのに。
そのあたりまえのことを無意識にやってくれているのが染色体だというのに。

今、テレビをつければミリシーベルト、マイクロシーベルトという言葉が耳に飛び込んでくる。
大内さんが浴びた20シーベルトに比べたら、そりゃあ少ないし
確実に生命の危険とされる7シーベルトに比べても、まだまだ少ない量だなと思う。
しかし、放医研の病院での治療が必要になっている今回の原発で被曝された方は、
200ミリシーベルトにも満たなかったはずなのにやけどの危険があると言われている。
2011年3月25日にきいた報道では意識もしっかりして歩くこともできるとのこと。
ほんとうに、このままの軽い怪我ですめばと心から願っているんだけれど、
大内さんだって、東大病院に運びこまれてしばらくは意識もはっきりしてお話もできていらしたと。
いま大丈夫だからと言われても、ちゃんと、経過をしっかり見て適切な治療を、後手にまわることなく、して差し上げて欲しい。

大内さんが我々に教えてくれたのは、危険への認識の甘さがほんとうに命を奪うものだということではなかったのか。
今回の被曝も、水がたまっているところに長靴もはかずに入っていたからというのが理由として大きそうだ。
線量計のアラームが、一人なら故障かもしれないけど全員だったのに信じないとか言う、のんきさもあるだろう。

おねがいだから、危険を冒して作業をしている皆様、御身を大切にして欲しい。
監督責任のある人は、事態を甘く見ないで欲しい。 ビビってもいいんですよ!必要以上くらいでちょうどいい。
どうして海のそばなのに魚屋さんが履くようながーいゴム長くらい用意していかないんだろう。
幼稚園の子供でも雨の日は長靴を自分から履くのに。

放射線の世界は、わたしたち人間の体力と理解の埒外にある。
それを、東海村の臨界事故を通った専門家は、わかっていないとは言ってはいけないのに。

東海村の臨界はさいわいおさまるのに長期はかからなかった。それでも被害は大きかった。
臨界事故じゃないぶん長期戦になってきてるのが今だ。
東海村の事故は10キロ圏内屋内退避だったのに、今回のは30キロ圏内もおびやかされている。

退避の必要のある近隣の住民のみなさまも、作業員のみなさまも、影響が出ているすべての地域の人々も、
一刻も早く安心して復興や通常業務に力を注げる環境になるように、心から祈り願っています。




蛇足かもしれないが言わせて欲しい。
危険に対する認識が甘いと、自覚できる人はまだいい。
この本を読むべきなのは、自覚できない人だ。

その人が現場にいなくて済ませていても現場にいるのでも、なんらかの決定権をもっているのならなおさら。
このうすい文庫本1冊を熟読して、己の無力となすべきことを知ってほしい。

水面よりも高い長靴を履けとか、線量計のアラームは無視するな、とか

簡単な指示で現場の人間を、なくてすむ危険から守れるのは自分なのだと肝に銘じるのだ。
そして、できることをすべて行っていただきたい。

ああ、ほんとうに…被曝された皆様が、健康被害が最小限に収まりますように!
それを考えたら、ちょっとくらい揺れるからって、ビビっていられるか!


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