読み専☆山ガール

『剣岳〈点の記〉』(剣は旧字)新田次郎 文春文庫に・1・34
『ドキュメント 山の突然死』柏澄子 山と渓谷社
『日本アルプス』小島烏水 岩波文庫緑一三五−一
『ヒマラヤ 日本人の記録』徳岡孝夫 朝日新聞社
『縦走 ダウラギリU・V・X峰』今井通子 朝日新聞社
『登頂記シリーズ3私のヒマラヤ ダウラギリW峰』今井通子 朝日新聞社(文庫)
『処女峰アンナプルナ』(処は旧字)エルゾーグ著近藤等訳 白水社
グレートサミッツ NHK放送中

去年あたりから、やまぼん、にとりつかれている。
それも難関最高峰レベルの登山についてかかれているものが多い。
軟弱もので山登りどころか普段の運動でさえ億劫がるちょうインドア派人間としては
(机の周りに食料があれば、トイレ以外に席を立つ必要を感じない!)
山は近づいてはならない神聖な場所であるとともに危険な場所でもある。
それをなぜと問われれば、だからこそ己の達し得ない領域へ足を運ぶ人々の冒険記を読むことで
その視野、思いをちゃっかり追体験させてもらうことに喜びを感じられるからだ。
読めば読むほど、私のような軟弱な人間は、遠くから臨みテレビの中に映像をみつめるに留めるほうが
賢明であると思われる。

さて。それにしても出会いというものは大切だ。
火をつけたのは、『山の突然死』か『剣岳』かどちらかなのだが、先後関係は忘れてしまった。
山の突然死は、お手伝いをしている会社のお使いで訪れた登山専門店の書架で見つけた。
自由時間にピューと一目散に飛んでいってゲットし、帰りの電車で読破。
山というものが、低くても、経験があっても、持病を抱えた人間はもちろん
健康を医学的に保障されたような幸福な人にとっても危険な死地であることがよく身にしみて学べる。
それでも、なぜか、読み終わったものの胸に山への憧れという火種を点してしまうのは
悲劇への道であるにもかかわらずその足取りが必ずしも
苦々しい思いばかりで運ばれているのではないとよみとることができるからだろう。
行路をともにした人々の印象に残る姿は、山を楽しもうとし、
山を歩けて幸せを感じている人の姿であることがほとんどだ。
また、大事なのは本の基盤に〈危険だけれど危険を逃れるための方法を探る〉姿勢があることだろう。
山がたやすく死地となるとしても、腹を壊すのがわかっていて牡蠣を食うよりも強く激しい魅力を覚える人間に、
生きて帰るためになにをしたらよいかを、取材に応じてくれた人々や山に倒れた人々を通して語りかけてくれる。

そしてここに、登るかわりに読むことを選んだ人間がいる。
もともとロマンスよりも冒険ものが好きだったのは、冒険は身体的に望みようがないと思って生きてきたからだ。
ロマンスもおなじくらい困難であるとは幼いころにはわからなかったが、無縁という意味では同じでも
冒険のほうにより血が騒いでしまうのはこれは習慣以外の何モノでもない。
偶然にも剣岳の映画を見、本を読むことが同時進行的にあり、雄大な自然と向き合う姿に打たれた。
ちなみに映画と本とでは焦点を当てられる場所が若干違っているから、
両方読んでちょうど一作品、のような印象を持っている。
どちらか片方の方にはぜひもう片方も鑑賞オススメする。
ちなみにこの剣岳で敵役になっていた小島の書いたのが『日本アルプス』で読める。
たいへんに文語調なので苦労される向きが多いかと思うけれども、美しいので
現実社会に疲れたときは却ってよい脳の休息になるかもしれない。

『ヒマラヤ』は、おそらく小島の後をついでいく趣味としての登山を成熟させていった人々の話といっていいだろう。
ただし戦前あたりからの話になるので時間はちょっとあいている。
高いところに登るという目的だけでなく、勉強のため、研究のための登山メンバーの話もふんだんにあり、
また現地の人々との交流に関しても充実しているところにこの本の面白さはあると思う。
まだ日本に入る時点や現地に行ってもクライマックスたる頂上アタックに入る前のエピソードはまた、
登山に限らずひとつの事業をなしえるために協力していかなくてはならない人間の、集団における心理の動きまでも読み取れて
登山そのものに関心は薄い人でも社会人なら必読書にしてもいいんじゃないかとさえ思われた。
胸ときめいたのは、先日放送されたグレートサミッツの特番で『ヒマラヤ』で名を何度も見て覚えた人々の写真や映像を思いがけずたくさん見ることができたこと。
あれはあのひと、おお○○さん!と言っていたら家族に「知り合いか」とツッコミをくらわされた。
たしかに紙面においては、ただでさえふるい本がより年季がはいってしまうくらい読み込んだので
会ったことはなくこれからもなくても、すごく親しい気持ちは覚えていたようだ。

あと挙げたやまぼんも、どれも魅力的であったり
(今井氏のは、アタックメンバーでない隊員からの視点として大変興味深かった!)
これから読むことになっているものもある。
<まだ読んでないのか
<ほら、ストックがないと悲しくなるじゃん!
まぁあれだ、まだまだ個人的トレンドから外れてないので、増えたらまたご紹介することもあるだろう。
やまぼんへの素地はきのこ本だったりするので、きのこ本についてそのうちご紹介したい。

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